波の音だけがBGMだった。ランカウイのビーチにただ一組のために設えられた食卓で、夕陽が海に沈みきるまでの数時間。これまで重ねてきたどの一皿とも比べようのない、一生の記憶に刻まれる夜となった。
訪問時期:2025年3月上旬(滞在中の一夜/息子:生後10〜11ヶ月)
利用シーン:家族滞在(ザ・リッツ・カールトン ランカウイ滞在中の特別ディナー)
予約方法・難易度:要予約(24時間前まで)。一日一組限定のため、滞在日程が決まり次第の早期予約が要。スタッフ推奨の19:00開始枠を選択
予算帯:OCEAN’S SOUNDコース RM 1,200〜(2名分・ワイン付き/2025年3月現在)。Bonvoyポイントの獲得・利用可
利用内容:プライベートビーチディナー(ウェルカムシャンパン+ボトルワイン付きコース)
Bonvoyステータス・ポイント利用有無:プラチナエリート



「Dining Beyond」は、ザ・リッツ・カールトン ランカウイが供する、砂浜に一組だけのテーブルを設えるプライベートサンセットディナーである。庭園のガゼボかビーチかを選べるが、我々が案内されたのはビーチ。この日は本来The Beach Grillの休業日であったが、特別に対応いただき、文字通り貸し切りの浜辺での一夜となった。
夕刻、スタッフに導かれて浜へ降りると、白い天蓋が三脚の流木から放射状に広がり、その下に一卓だけのテーブルが待っていた。花を刺繍した純白のクロス、籐のランタン、野の花を活けた小さな器。海風に天幕がふくらむたび、背後の空が金から橙へ、そして深い紫へと刻々と色を変えていく。乳児連れの我々を気遣い、テーブルには息子のための椅子と小さな器も整えられていた。準備を終えたスタッフが静かに退がると、あとには波音と、遠くに灯りはじめた漁火だけが残る。



ウェルカムシャンパンで乾杯し、セットのボトルワインはブルゴーニュ産のシャルドネ。コースは「OCEAN’S SOUND」と題された全8皿である。緑釉の器に盛られたシーフードクロケットは、カレーリーフとサンバルアイオリがマレーシアの土地を舌の上に呼び込み、続くタイガープラウンのサラダはマンゴーの甘みと海老の弾力が涼やかに響き合う。椎茸を添えたホタテのソテーは、香ばしく焼けた表面の下にねっとりとした甘みが潜み、濃厚なソースがそれを受け止める。アンダマン・レッドスナッパーは皮目を鮮烈に焼き上げ、アーティチョークのソースが魚の旨みを引き立てた。



カラマンシーのソルベで口中を清めたのち、この夜の白眉となったのがオーストラリア産のハーブ・ラムラックである。骨付きのまま供された断面は美しいロゼ色で、噛みしめると滲む肉汁に羊特有の香りが上品に漂う。ハーブのマッシュポテトとピクルドパセリのソースが、その力強さを繊細に束ねていた。締めのチョコ&ナッツ――ココナッツとオパリスのババロア、バナナとマンゴーのチャツネ、アーモンドのクロッカンが織りなす一皿を、コーヒーとともにゆっくりと味わう頃には、空はすっかり宵の色に沈んでいた。
すっかり日が落ちると、浜辺には焚き火が焚かれ、炎の揺らぎが天幕をやわらかく照らした。妻が砂の上のクッションに身を預け、遠い水平線の残照を眺める。その傍らで息子が無邪気に砂に触れる。料理の完成度、ワインとのペアリング、刻々と移ろう光、波の音、火の温もり――そのすべてが一点に収斂し、「特別」という言葉すら軽く感じられるほどの時間が、確かにそこにあった。



総評
料理そのものの完成度も、名だたるダイニングに引けを取らない。だがこの夜を唯一無二たらしめたのは、味覚と視覚と聴覚、そして肌に触れる砂と火の温度までもが一つの体験として調和していたことに尽きる。サンセットから宵へと移ろう光の中で、大切な人と分かち合う食卓――それは、もはや食事という枠を超えた、人生の一場面そのものであった。ランカウイのリッツ・カールトンに滞在するのであれば、迷う理由はない。必ず体験すべき一夜だと、確信を持って断言できる。こうした特別な体験も、Bonvoyのポイントを獲得・利用しながら組み立てられる。
レストランでの食事体験
同施設のレストランでの食事評は、姉妹メディア「Gastronomy」で紹介している。
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