木立が途切れ、砂浜がひらける場所にその店はある。氷の上に並ぶその日の一尾を自分の目で選び、炭火に託す——景色と料理が同じ強度で迫ってくる、滞在の輪郭を決める一夜だった。
訪問時期:2025年2月下旬〜3月上旬(5泊6日の滞在中、ディナーで利用)
利用シーン:家族滞在(妻・息子=生後10〜11ヶ月同伴)
予約方法:宿泊は Marriott Bonvoy ポイント宿泊。レストランは滞在中にホテル経由で別途予約
予算帯:1人あたり200〜350リンギット程度(ドリンク込み・2025年2月現在のメニュー表記に基づく目安)
利用内容:ディナー(Night Sea Market/Fire Grill/Ritz Kids メニュー)
Bonvoyステータス:プラチナエリート
席:砂浜に面した屋外テラス席



砂浜の高さで食事をするということ
The Beach Grillは、リゾートの海側、岩積みの低い壁が波打ち際に沿って弧を描くあたりに位置する。ダイニングの床面と砂浜の高低差がほとんどないため、視界を遮るものが何もない。日没前の時間帯に着席すると、海面に落ちた光がそのままテーブルクロスの上まで届いてくる。
音の設計も印象に残った。波音とスタッフの所作以外に、余分な音がほとんど乗ってこない。BGMは風の音に負ける程度の音量に抑えられ、隣席との距離も十分に取られている。屋外でありながら騒がしさとは無縁で、乳幼児連れでも「静けさを壊してしまうのではないか」という緊張を強いられなかった。この一点だけでも、家族での予約に値する。
日没に合わせたいなら、サンセットの30〜40分前に着席できる時間で予約を入れておくのが賢明だ。空が色を変えていく過程を、前菜からメインへ移る流れとちょうど重ねられる。
Night Sea Market——選ぶことから食事が始まる
この店の核は、入口脇に据えられた氷のカウンターにある。アンダマン海の日々の水揚げと島内の養殖から選ばれた魚が、頭から尾まで姿のまま並ぶ。グルーパー、ポンフレット、グラント、シーバス、スナッパー、そして殻付きのプラウン。価格は100グラム単位で表示され、目の前の秤で計量される(グルーパー38、ポンフレット36、グラント36、シーバス32リンギット/100g、いずれも2025年2月現在)。
シェフがその日の状態を見ながら、どの魚をどう火に入れるべきかを説明してくれる。仕上げのグレーズはビーチグリル・グレーズかハニーライム・グレーズから選べるが、素材の質を確かめたい一尾目は、余計な衣装をまとわせない方がいい。
一点だけ実務的な注意を。100グラム単位の課金であるため、一尾の総額は計量後に確定する。魚体の大きさによって金額は素直に動くので、選ぶ段階で「この一尾でおおよそいくらか」を尋ねておくと、会計時の体感が整う。躊躇するような雰囲気の店ではなく、こちらが尋ねれば即座に答えが返ってくる。



皿の上
まずパンが供される。表面をしっかり焼いたサワードウのスライスと、ローズマリーを織り込んだ細いグリッシーニ、二種のディップ。塩の粒が残る焼き面と、内相の気泡の粗さが好ましく、これだけで先の期待値が上がった。
前菜のベイクド・キングオイスターマッシュルームは、カシューナッツのクリームを敷き、オニオンのピクルスとヘーゼルナッツオイルを合わせた一皿。エリンギの繊維が水分を保ったまま火が通っており、噛むほどに旨味が出てくる。菜食対応の皿でありながら物足りなさが一切ないのは、クリームの油脂と酸のピクルスで輪郭を作っているからだろう。理にかなった設計だ。
ラクサは、卵麺にホワイトプラウン、揚げた豆腐、もやしを合わせ、スパイスの効いたココナッツのスープで供される。この種のリゾートで出される現地料理は、外国人向けに角を落としすぎることが多い。ここのラクサはスパイスの立ち上がりを残したまま、ココナッツの甘みで深みを作っており、逃げていない。
そして圧巻がシーバスだった。丸ごと炭火に入り、皮目に焦げ目が入り、身は繊維がほどけるように外れる。淡白な魚ほど火入れの精度が露骨に出るが、この一尾には過不足がなかった。レモンを軽く搾るだけで十分に完結している。付け合わせに頼んだフライドポテトも、表面の硬質さと内側の粉質のコントラストが明確で、手を抜いた一品ではない。
ワインは2019年のオーストラリア産シャルドネを選んだ。柑橘の爽やかさと樽香のバランスが絶妙で、炭火の香ばしさと魚の脂の両方を受け止める。ここに合わせるべき一本だった。



生後10ヶ月の息子と
子連れ視点での評価は高い。Ritz Kids メニューが独立して用意されており、1皿+1ドリンクの構成で、2歳未満は無料となる(11:00〜22:30、2025年2月現在)。この年齢帯で「注文できる選択肢がある」ことの安心感は大きい。
離乳食期に直結するのはベビーフードの項目で、ポテト、キャロット、カリフラワーの三種のピューレが並ぶ。持参の離乳食が尽きたときの保険として、これがメニューに明記されている意味は小さくない。
息子には、フリーレンジ・チキンブレストをスチームで、サイドにローストキャロットとマッシュポテトを合わせてもらった。グリル・ベイク・スチームから調理法を選べるため、月齢に応じて硬さと油分を落とせる。実際に運ばれてきた鶏胸肉は、繊維に沿って薄く切り分けられ、10ヶ月の口でも扱える状態になっていた。ドリンクのフルーツスムージーは、猿の絵が入った子ども用カップに、飾りのチェリーを添えて供される。息子はまだ飲めないが、こういう一手間が家族の食卓の空気を変える。
ハイチェアはテラス席にも問題なく用意され、通路幅も十分。砂浜に面してはいるものの、ダイニングの床は平滑に舗装されており、抱いたまま移動しても足を取られることはない。屋外席で乳幼児が最も嫌がる直射日光も、日没前後の時間帯であれば無縁である。
総評
料理の水準、選ぶという体験、そして視界を遮らない景観。この三つが同じ方向を向いている店は、リゾートダイニングの中でも多くない。エリンギ、ラクサ、そしてシーバス——どれも「リゾートだからこの程度」という予防線を張っていないことが明確に伝わってきた。素晴らしい料理と絶景が揃った、間違いなく訪れる価値のある一軒である。次にランカウイを再訪するなら、初日の夜はここに充てたい。今度はグルーパーを一尾、ハニーライム・グレーズで頼んでみたい。
推奨シーンは、乳幼児連れの家族滞在、そしてサンセットを含めた記念日のディナー。ドレスコードは厳格ではないが、砂浜に面した屋外席のため、日没後は薄手の羽織が一枚あると快適だ。
こうした滞在の体感コストは、Bonvoyのポイントやエリート資格を軸に据えると大きく変わってくる。今回の宿泊自体がポイントによるものであり、浮いた予算をダイニングに回せたからこそ、この一夜が成立している。どのカードをどう持つべきかは家庭や利用頻度によって最適解が異なるため、気になる方は下記フォームから遠慮なく尋ねてほしい。
レストランでの食事体験
同施設のレストランでの食事評は、姉妹メディア「Gastronomy」で紹介している。
- Langkawi Kitchen|リッツ・カールトン・ランカウイ・オールデイダイニング——ジャングルと海に挟まれた、世界屈指のホテル朝食
- Hai Yan|リッツ・カールトン・ランカウイ・中華料理——水上の絶景と四川の刺激が交差する、特別な夜
- Dining Beyond|リッツ・カールトン・ランカウイ・プライベートダイニング——星空と波音に包まれた、人生で一度の食卓
- The Beach Grill|リッツ・カールトン・ランカウイ・ビーチダイニング——氷上の一尾を選ぶ夜、市場を店内に持ち込んだ設計
この滞在に関連する記事
- ザ・リッツ・カールトン ランカウイ 宿泊記|生後10ヶ月の息子と過ごした5泊6日|約100㎡のコーナールームや、ビーチ・プールを含む5泊6日のリゾート滞在全体を総評としてまとめている。
- リッツ・キッズと子連れ設備 完全ガイド|生後10ヶ月の息子と検証した子連れ設備|プールやキッズクラブなど、子連れで使える館内設備を実用ガイドとしてまとめている。
- Hai Yan ランカウイ|生後10〜11ヶ月の息子と訪れた水上ダイニング|海上の岩に建つ高床式の水上デッキで味わった、モダン中華・四川料理の様子を記録している。
Marriott Bonvoyアメックスと筆者へのご質問について
本サイトで紹介しているエリート資格・クラブラウンジ・無料宿泊といった滞在の価値は、その多くをMarriott Bonvoyアメリカン・エキスプレス・カードに支えられている。
カードの入会を検討している方、入会特典をうまく活かす方法を知りたい方はもちろん、Bonvoyの活用法やホテル選び、子連れ滞在の不安といったご相談まで、下記フォームで受け付けている。筆者自身の実体験に基づき、個別にお答えする。
ご入力いただいた内容は、お問い合わせへの返信以外には使用しない。
コメント